メリットオーダーとは?電力価格が決まる仕組み・限界電源・再エネの影響を図解で解説

メリットオーダーの仕組みを示す3対2のアイキャッチ画像

「なぜ、電力需要が増えると電力価格が上がるのか」「再エネが増えると火力発電の稼働が減るのはなぜか」。これらを理解する鍵がメリットオーダー(Merit Order)です。

この記事では、メリットオーダーの意味、供給曲線と市場価格の関係、需要変動・再エネ導入による影響、そしてJEPXや火力発電の収益性とのつながりを、数値例と図解で整理します。

1. メリットオーダーとは?

メリットオーダーとは、発電に必要な追加費用(限界費用)が低い電源から順に、電力供給を考える基本的な考え方です。電力需要を満たすために、費用の安い電源を先に使い、それだけでは足りなければ高い電源を追加します。

例えば、限界費用が2円/kWhの電源と16円/kWhの電源が同じ条件で利用できるなら、一般に前者を優先した方が電力量の供給費用を抑えられます。ただし実際の電力市場では、入札価格と発電の限界費用は必ずしも一致しません。

2. メリットオーダーを図解で理解する

まず、以下のような架空の電源構成を考えます。各電源は表に示す供給可能量まで発電できるものとします。

電源(例示)供給可能量限界費用(仮定)累積供給可能量
再エネ等200MW2円/kWh200MW
高効率電源300MW6円/kWh500MW
一般火力250MW10円/kWh750MW
高コスト火力250MW16円/kWh1,000MW
図1 メリットオーダーの供給曲線(説明用の仮定値)
図1 メリットオーダーの供給曲線(説明用の仮定値)

横軸は供給可能量、縦軸は限界費用です。安い電源から順に積み上げると、階段状の供給曲線になります。

ここで需要が650MWなら、まず200MWの電源、次に300MWの電源を使っても合計500MWしかありません。残る150MWを一般火力から供給するため、10円/kWhの電源が需要を満たすために必要な最後の電源となります。これを「限界電源」と呼びます。

3. 限界電源が電力価格を左右する仕組み

単純化した単一価格の市場モデルでは、需要を満たす最後の電源の入札価格が、約定価格を決める重要な要素になります。先ほどの例で、各電源が限界費用と同じ価格で入札し、すべてが約定可能だと仮定すると、約定価格は10円/kWhとなるイメージです。

重要なのは、費用が2円/kWhの電源も、単純化した単一価格の約定モデルでは同じ約定価格を受け取る場合があることです。これは発電所ごとに自分の費用で電気を売る「個別価格方式」とは異なります。

ただし、JEPXの実際の約定は、売り・買いの入札、約定処理、連系線制約、エリア分断などに影響されます。「限界費用がそのままJEPX価格になる」という説明は正確ではありません。メリットオーダーは、あくまで価格形成を理解するための基本モデルです。

4. 需要が増えると電力価格が上がるのはなぜ?

供給構成を固定して需要だけを変えると、必要となる限界電源が変わります。

需要必要になる限界電源限界費用(仮定)
450MW高効率電源6円/kWh
650MW一般火力10円/kWh
900MW高コスト火力16円/kWh
図2 需要増加による限界電源の変化(説明用の仮定値)
図2 需要増加による限界電源の変化(説明用の仮定値)

この例では、需要が450MWから900MWに増えると、最後に必要となる電源の限界費用が6円/kWhから16円/kWhへ上がります。これが、需要が強い時間帯に卸電力価格が上昇しやすい基本的な理由です。

反対に、需要が低い時間帯には高コスト電源を使わずに済むため、価格が低下しやすくなります。ただし、燃料価格、入札戦略、需給制約、気象条件などによって実際の価格は変わります。

5. 再エネが増えると電力価格はどう変わる?

太陽光・風力発電は、運転時に追加的な燃料を必要としないため、一般に短期限界費用が低い電源です。再エネの供給が増え、他の条件が変わらなければ、従来必要だった高コスト電源の発電量を押し下げることがあります。

例えば、需要が650MWの時間帯に、追加の再エネが150MW供給できれば、既存の電源で賄う必要がある需要は500MWになります。先ほどの単純モデルでは、一般火力を追加せずに需要を満たせるため、限界電源が変わる可能性があります。

このように、再エネ導入が卸電力価格を押し下げる方向に働くことを、メリットオーダー効果と呼びます。ただし、太陽光が増える昼間には供給過剰や出力制御が問題となることもあり、価格への影響は時間帯・エリア・系統制約によって異なります。

6. メリットオーダーと火力発電所の収益性

電力市場の価格が限界電源によって決まる局面では、限界費用の低い発電所ほど、売電価格と変動費の差を確保しやすくなります。例えば電力価格が12円/kWh、発電所Aの限界費用が7円/kWh、発電所Bが11円/kWhなら、単純な変動費控除前後の差は次のとおりです。

発電所電力価格限界費用差額
A12円/kWh7円/kWh5円/kWh
B12円/kWh11円/kWh1円/kWh

LNG火力発電所の場合、燃料費に着目したマージンはスパークスプレッドと呼ばれます。燃料価格が上がると供給曲線上の火力電源の位置が変わり、売電価格と発電所の収益性の双方に影響します。詳しくはスパークスプレッドの計算方法も参照してください。

ただし、起動費、最低出力、部分負荷効率、保守費、固定費などがあるため、メリットオーダー上で安い電源から順番に機械的に起動すれば最適とは限りません。

7. JEPXスポット市場との関係

JEPXスポット市場は、翌日受け渡しの電気を30分単位で売買する市場です。電源の限界費用は売り入札を考える重要な要素ですが、JEPXでは売り手と買い手の入札を突き合わせて約定が決まります。

したがって、次の3つを区別すると理解しやすくなります。

概念意味主な役割
限界費用電気を追加的に発電する費用電源の供給判断の基礎
売り入札価格市場に提示する販売希望価格市場の約定に直接関係
市場約定価格取引ルールに従って成立した価格売買の決済・価格指標

また、連系線に混雑があると、同じ時間帯でもエリアごとに約定価格が異なることがあります。エリア間値差とそのヘッジは間接送電権の記事で解説しています。

8. 同時市場とメリットオーダーの関係

メリットオーダーは電源の変動費を理解するうえで有用ですが、実際の電力系統運用では、電力量(kWh)だけでなく、調整力(ΔkW)や発電所の起動停止制約も考える必要があります。

日本で検討されている同時市場は、電力量と調整力を一体的に最適化する方向の制度設計です。単に費用の安い順番で電源を並べるだけでなく、起動費・最低出力・送電制約などを考慮した運転計画が重要になります。詳しくは同時市場とは?をご覧ください。

9. メリットオーダーを見る際の注意点

  • 限界費用と入札価格は同じとは限らない:契約、機会費用、運転制約、入札戦略などが影響します。
  • 燃料価格とCO₂コストで順番が変わる:同じ火力でも燃料単価や効率によって限界費用が変化します。
  • 設備は自由に起動・停止できない:最低出力、起動時間、出力変化速度などを考慮する必要があります。
  • エリア・時間帯で結果が異なる:連系線制約、再エネ出力、需要の変動により市場価格は変化します。
  • 実際の価格を再現するには市場ルールが必要:この記事の図は説明用であり、実際のJEPX価格の算定式を示すものではありません。

10. まとめ

メリットオーダーは、限界費用の低い電源から順に供給を考える基本概念です。需要が増えれば高コスト電源が必要となり、逆に再エネの供給が増えれば限界電源が変わることがあります。

一方で、実際のJEPX価格は入札と市場ルールによって決まります。「限界費用 → 売り入札 → 市場約定 → 発電所のマージン」という流れを意識すると、電力市場の価格変動をより立体的に理解できます。

参考資料

コメントをどうぞ