同時市場とは?JEPX・需給調整市場との違いや仕組み、導入の目的をわかりやすく解説

日本の電力市場では、電力量を取引する「JEPX」と、電力の需給バランスを維持するための「需給調整市場」が、それぞれ異なる役割を担っています。

しかし、再生可能エネルギーの導入拡大や電力需給の変化によって、現在の市場制度にはさまざまな課題が生じています。

こうした課題を解決するため、国が導入を検討しているのが「同時市場」です。

同時市場とは、電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を一体的に取引・約定することを目指す、新しい電力市場の仕組みです。

この記事では、同時市場の基本的な考え方から、JEPXや需給調整市場との違い、導入するメリット、電力事業者への影響、最新の検討状況まで、初心者にもわかりやすく解説します。

1. 同時市場とは?

同時市場とは、電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に約定する市場のことです。

現在の日本では、主に次のように電力取引が行われています。

  • JEPXのスポット市場:翌日に受け渡す電力量(kWh)を売買する
  • 需給調整市場:需給バランスを維持するための調整力(ΔkW)を調達する

これらは目的が異なるため、基本的に別々の仕組みで取引されています。

しかし、発電所が持つ能力には限りがあります。

例えば、ある発電所の最大出力が100万kWだったとします。

その発電所が電力供給のために100万kWを使い切ってしまえば、さらに出力を増やす余力はありません。

一方、80万kWで運転していれば、最大20万kWの出力を増やせる余力があります。

このように、電力量の供給と調整力の確保は、同じ発電設備の能力を利用するため、互いに関係しています。

同時市場は、この2つを別々に考えるのではなく、一体的に最適化しようとする仕組みです。

2. なぜ同時市場が必要なのか?

同時市場の導入が検討されている背景には、主に3つの課題があります。

① 電力量と調整力を別々に調達している

現在の市場制度では、電力量と調整力の調達が別々に行われています。

しかし、同じ発電所が電力量の供給にも調整力の提供にも利用できるため、個別の市場で最適な結果が得られても、全体として最も効率的とは限りません。

例えば、発電コストの安い発電所を電力量の供給に最大限利用すると、調整力を確保するために別の高コストな発電所を運転する必要が生じる可能性があります。

電力量と調整力を同時に考慮できれば、全体の費用を抑えられる可能性があります。

② 需給調整市場で応札不足などの課題がある

需給調整市場では、必要な調整力に対して応札量が不足するケースや、調達費用が高くなるケースが課題となっています。

また、発電所の起動停止には時間がかかるため、必要なタイミングで調整力を確保することが難しい場合もあります。

同時市場では、発電所の運転計画と調整力の確保を一体的に考えることで、こうした課題への対応が期待されています。

需給調整市場の基本については、関連記事「需給調整市場とは?仕組み・5つの商品・JEPXとの違いをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

③ 再生可能エネルギーの増加

太陽光発電や風力発電は、天候によって発電量が変化します。

例えば、翌日に晴れると予測していても、実際には曇りとなり、太陽光発電の出力が想定を下回ることがあります。

こうした変動に対応するには、火力発電、揚水発電、蓄電池などの調整力が必要です。

再生可能エネルギーの導入が拡大するほど、電力量の供給と調整力の確保を効率的に組み合わせる重要性が高まります。

3. kWhとΔkWの違い

同時市場を理解するうえで重要なのが、kWhとΔkWの違いです。

kWh:実際に供給する電力量

kWh(キロワットアワー)は、一定時間に供給・消費する電力量を表します。

例えば、出力10万kWで1時間発電すると、発電電力量は10万kWhになります。

JEPXのスポット市場では、こうした電力量を取引しています。

ΔkW:出力を調整できる能力

ΔkW(デルタキロワット)は、必要に応じて発電出力などを増減できる能力を表します。

例えば、最大出力10万kWの発電所が8万kWで運転している場合、最大2万kWの上げ調整余力があります。

この2万kWを必要なときに利用できるように確保することが、調整力の取引の基本的な考え方です。

ただし、実際に調整力として利用できる量は、出力変化速度や運転制約などにも左右されます。

項目

kWh

ΔkW

意味

電力量

出力を調整できる能力

主な用途

電気の供給・販売

需給バランスの調整

現在の代表的な市場

JEPXスポット市場

需給調整市場

具体例

1時間で10万kWhを供給

必要時に2万kW増出力できる

同時市場では、こうした電力量と調整力を一体的に取り扱うことを目指しています。

4. 同時市場の仕組みを具体例で解説

同時市場の考え方を、簡単な例で確認してみましょう。

ある時間帯に、次の2つの発電所があるとします。

項目

A発電所

B発電所

最大出力

100万kW

100万kW

発電コスト

10円/kWh

15円/kWh

特徴

発電コストが安い

発電コストが高い

この時間帯に、合計100万kWの電力供給と、20万kWの上げ調整力が必要だとします。

電力量だけを考える場合

電力量の供給だけを考えれば、発電コストが安いA発電所を100万kWで運転することが合理的に見えます。

しかし、A発電所は最大出力に達しているため、出力をさらに増やす余力がありません。

調整力を確保するには、B発電所などの別の設備を利用する必要があります。

電力量と調整力を同時に考える場合

一方、電力量と調整力を同時に考えれば、例えば次のような運転計画が候補になります。

  • A発電所:80万kWを供給し、20万kWの上げ調整余力を確保
  • B発電所:20万kWを供給

この場合、合計100万kWの電力を供給しながら、A発電所に20万kWの調整余力を残せます。

ただし、この運転計画が必ず最も安くなるわけではありません。

実際には、発電所の起動費、最低出力、出力変化速度、調整力の提供費用、送電制約などを考慮する必要があります。

同時市場のポイントは、電力量の価格だけでなく、調整力を確保する費用や発電所の運転制約も含めて、全体として効率的な運転計画を決めようとすることです。

5. JEPX・需給調整市場と同時市場の違い

現在のJEPXスポット市場と需給調整市場、検討中の同時市場を比較すると、次のようになります。

項目

JEPXスポット市場

需給調整市場

同時市場(検討中)

主な目的

電力量の売買

調整力の確保

電力量と調整力の一体的な最適化

主な取引対象

kWh

ΔkW

kWhとΔkW

発電所の運転制約

現行の約定方式では限定的

商品要件等を考慮

起動費・運転制約等を総合的に考慮する方向

制度の状況

運用中

運用中

詳細設計・技術検証中

現在のJEPXスポット市場では、売り手と買い手の入札に基づいて電力量を約定します。

一方、同時市場では、発電所の起動停止や出力配分を含めた最適化が検討されています。

JEPXの基本的な仕組みについては、関連記事「JEPXとは?電力業界で働く人が知っておきたい仕組みと基礎知識」も参考にしてください。

なお、同時市場の導入によって既存市場がどのように再編されるかについては、今後の詳細設計によって決まります。

6. 同時市場の特徴「電源起動・出力配分の最適化」

同時市場では、電力量と調整力を同時に約定するだけでなく、発電所の運転制約を考慮した最適化が重要になります。

発電所は自由に起動・停止できない

例えば、火力発電所には次のような制約があります。

  • 起動するために一定の時間が必要
  • 起動時に燃料費などの費用が発生する
  • 安定運転に必要な最低出力がある
  • 出力を急激に増減できない場合がある
  • 最低運転時間や最低停止時間などの制約がある

このため、単純に発電コストの安い順番に電源を選ぶだけでは、実際に運転できる計画にならない可能性があります。

SCUCとは?

同時市場の検討で登場する重要な技術が「SCUC」です。

SCUCとは「Security Constrained Unit Commitment」の略で、日本語では一般に「系統制約を考慮した電源起動停止計画」と説明されます。

簡単にいえば、電力系統の制約や発電所の運転条件を考慮しながら、どの発電所を起動・停止するかを計算する仕組みです。

例えば、次のような条件を同時に考慮します。

  • 電力需要を満たせるか
  • 必要な調整力を確保できるか
  • 発電所の起動費や燃料費はいくらか
  • 送電線の容量制約を守れるか
  • 発電所の最低出力や出力変化速度を守れるか

こうした複数の条件を満たしながら、全体の費用を抑える計画を求めます。

ただし、日本の同時市場で採用する計算手法や制約条件の詳細は、引き続き検討されています。

7. 同時市場を導入するメリット

同時市場の導入によって、主に次のような効果が期待されています。

① 電力の調達・運用コストの低減

電力量と調整力を別々に調達するのではなく、一体的に最適化することで、発電設備をより効率的に活用できる可能性があります。

ただし、費用削減の規模は制度設計や実際の市場環境によって変わるため、導入によって必ずコストが下がると決まっているわけではありません。

② 発電所の運転計画の効率化

発電所の起動費や運転制約を考慮することで、実際の設備運用に適した計画を作成しやすくなることが期待されています。

特に、起動に時間がかかる火力発電所などでは、適切なタイミングで起動を判断することが重要です。

③ 再生可能エネルギーの導入拡大への対応

太陽光や風力の発電量が変動する状況でも、必要な調整力を確保しながら電力量を配分できれば、電力系統全体の運用効率を高められる可能性があります。

④ 電力系統の制約を踏まえた取引

同時市場では、送電線の容量などの制約を考慮した最適化も検討されています。

電源の発電コストだけでなく、実際に電気を送れるかという条件を反映することで、より実態に即した運用につながることが期待されます。

8. 発電事業者・小売電気事業者への影響

同時市場が導入された場合、電力事業者の業務にも変化が生じる可能性があります。

発電事業者への影響

発電事業者では、発電コストだけでなく、設備の運転制約に関する情報が重要になると考えられます。

例えば、次のような情報です。

  • 起動費
  • 増分燃料費
  • 最低出力
  • 出力変化速度
  • 起動・停止に必要な時間
  • 調整力として提供できる能力

こうした情報を市場の最適化計算にどのように反映するかが、重要な検討課題です。

また、市場の約定結果と実際の発電所の運転計画をどのように連携させるかも、実務上のポイントになります。

小売電気事業者への影響

小売電気事業者にとっては、電力調達の方法や市場価格の形成方法が変化する可能性があります。

特に、需要予測、調達計画、入札、精算といった業務への影響が考えられます。

ただし、小売電気事業者の具体的な入札方法や計画提出義務などについては、詳細設計が進められている段階です。

現時点で、将来の実務ルールがすべて決まっているわけではありません。

9. 同時市場とインバランス料金の関係

同時市場と関連する制度の一つが、インバランス料金です。

インバランスとは、事前に計画した電力量と実際の電力量に生じる差のことです。

例えば、小売電気事業者が1万kWhの電力を調達する計画を立てていたにもかかわらず、実際の需要が1万1,000kWhとなった場合、1,000kWhの不足が生じます。

このような差を精算するための仕組みがインバランス料金制度です。

同時市場が導入される場合、市場での電力量・調整力の約定と、実需給段階の調整・精算をどのように整合させるかが重要になります。

ただし、同時市場の導入によってインバランス制度がなくなると決まっているわけではありません。

インバランス料金の基本については、関連記事「インバランス料金とは?仕組み・計算方法・JEPXとの違いをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

10. 同時市場はいつから始まる?2026年の検討状況

同時市場は、2026年10月時点ではまだ導入されていません。

経済産業省と電力広域的運営推進機関を中心に、制度の詳細設計や技術的な検討が進められています。

2025年:第二次中間取りまとめ

2025年10月15日には、「同時市場の在り方等に関する検討会」の第二次中間取りまとめが公表されました。

同時市場の基本的な方向性や、今後検討すべき課題が整理されています。

2026年:詳細業務設計と技術研究

2026年には、同時市場の実現に向けた詳細業務設計や技術研究が進められています。

6月29日の第24回検討会では、技術研究と詳細業務設計の進め方などが議論されました。

さらに9月14日の第25回検討会では、第1フェーズの検討状況が報告されました。

2026年度内に予定していたシミュレーションについては実施を見送り、海外市場の調査や事業者へのヒアリングなどを進める方向が示されています。

今後は、発電所や電力系統の制約条件、入札・約定・精算などの業務設計をさらに具体化していく予定です。

導入時期は決まっている?

2026年10月時点で、同時市場の正式な導入時期は確定していません。

詳細設計や技術的な検証を通じて、実現可能性を確認したうえで、導入を最終判断する方針です。

そのため、今後の制度検討の進捗を継続的に確認することが重要です。

11. 同時市場の主な課題

同時市場には期待される効果がある一方、実現にはいくつかの課題があります。

① 複雑な最適化計算

同時市場では、多数の発電所の運転制約や送電線の制約を考慮しながら、電力量と調整力を同時に最適化する必要があります。

対象となる設備が多くなるほど、計算は複雑になります。

市場の約定処理を所定の時間内に完了できるかどうかは、重要な技術的課題です。

② 市場価格の決定方法

発電所の起動費や運転制約を考慮して最適化した場合、市場価格をどのように決めるかが課題となります。

単純な売り入札と買い入札の交点だけでは、発電所の起動費などを十分に反映できない場合があります。

そのため、約定結果と価格形成の関係について、技術的な検証が進められています。

③ 事業者の実務負担

発電事業者や小売電気事業者が提出する情報、入札方法、計画の変更手続きなどが変わる可能性があります。

新しい制度に対応するには、システム改修や業務フローの変更が必要になる場合もあります。

制度の効率性だけでなく、事業者が実務上対応できる仕組みとすることも重要です。

④ 既存制度との整合性

日本には、JEPX、需給調整市場、インバランス料金制度など、さまざまな市場・制度があります。

同時市場の導入にあたっては、これらの制度との役割分担や精算方法を整理する必要があります。

また、電力取引の自由度や市場参加者の公平性をどのように確保するかも重要な論点です。

12. まとめ:同時市場は日本の電力市場を変える可能性がある

同時市場は、現在別々に取引されている電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を一体的に約定することを目指す、新しい市場の仕組みです。

今回のポイントを整理すると、次のとおりです。

  • 同時市場では、電力量と調整力を一体的に最適化する
  • 発電所の起動費や運転制約、送電制約などを考慮する方向で検討されている
  • 電力の調達・運用コストの低減や、再生可能エネルギーの導入拡大への対応が期待される
  • 発電事業者・小売電気事業者の入札や計画業務に影響する可能性がある
  • 2026年10月時点では詳細設計・技術研究の段階であり、正式な導入時期は決まっていない

同時市場は、単に新しい電力取引の場を設けるだけではありません。

電力の供給と需給調整を一体的に考え、発電設備をより効率的に活用するための制度改革といえます。

今後の検討によって制度の具体的な内容が明らかになれば、発電事業者や小売電気事業者の実務にも大きな影響を与える可能性があります。

電力業界で働く人にとって、引き続き注目しておきたいテーマです。


参考資料

本記事は2026年10月24日時点の公表情報をもとに作成しています。同時市場の制度設計や導入時期は、今後変更・決定される可能性があります。

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