電力業界のニュースや制度資料で目にする「需給調整市場(じゅきゅうちょうせいしじょう)」。
電力の安定供給に欠かせない市場ですが、「JEPXとは何が違うのか」「一次調整力や三次調整力とは何か」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
需給調整市場とは、電気の需要と供給のずれを調整するために必要な能力(調整力)を取引する市場です。
この記事では、需給調整市場の基本的な仕組みから、5つの商品区分、取引されるΔkW(デルタキロワット)の意味、電力市場全体における役割まで、わかりやすく解説します。
1. 需給調整市場とは?
需給調整市場とは、一般送配電事業者が電力の需要と供給のバランスを維持するために必要な「調整力」を調達する市場です。
電気には、需要と供給を常に一致させる必要があるという特徴があります。
例えば、ある時間帯に電力需要が1,000万kWになると予測し、それに合わせて発電計画を立てていたとします。
しかし、実際には気温が予想以上に高くなり、電力需要が1,020万kWになるかもしれません。
この場合、当初の計画より20万kWの供給力が不足します。
この不足を補うため、発電所の出力を増やしたり、蓄電池から放電したりする必要があります。
こうした調整を可能にする能力が「調整力」です。
需給調整市場では、一般送配電事業者が必要な調整力を市場から調達します。
日本では2021年4月に市場取引が始まり、2024年4月には5つの調整力商品の取引が出そろいました。
2. なぜ需給調整市場が必要なのか?
電力の需要と供給は常に変化する
電力の需要は、時間帯や気温、天候などによって変化します。
一方、供給側でも、太陽光・風力発電の出力変動や発電設備のトラブルなどが発生します。
そのため、発電事業者や小売電気事業者が計画を立てていても、実際の需要と供給が完全に一致するとは限りません。
需給バランスが崩れると、電力系統の周波数が変動します。
周波数の大きな変動は電力設備の安定運用に影響するため、一般送配電事業者は常に需給バランスを調整しています。
従来はエリアごとに調整力を調達していた
需給調整市場が整備される以前、調整力は主に各エリアの一般送配電事業者が公募などによって調達していました。
これに対し、需給調整市場では、エリアを越えた広域的な調達を進めています。
市場を通じて調達することで、さまざまな事業者に参加機会を設けるとともに、調達費用の透明性や効率性を高めることが期待されています。
ただし、実際の広域調達には連系線の空き容量などの制約もあります。
3. 需給調整市場では何を売買している?
需給調整市場を理解するうえで重要なのが、ΔkW(デルタキロワット)とkWh(キロワットアワー)の違いです。
ΔkWとは「出力を調整できる能力」
ΔkWは、必要なときに発電出力などを変化させられる能力を表します。
例えば、ある発電所が現在50万kWで運転しており、必要に応じて60万kWまで出力を増やせるとします。
この場合、上方向に10万kWの調整余力があります。
この10万kWを、一定の条件の下で利用できるように確保することが、ΔkWの取引の基本的な考え方です。
重要なのは、実際に出力を増やさなくても、調整できる状態を確保すること自体に価値があるという点です。
kWhとは「実際に調整した電力量」
一方、kWhは実際に供給・消費した電力量を表します。
先ほどの発電所が、一般送配電事業者の指令によって10万kWの出力を30分間増やした場合、増加した電力量は次のとおりです。
10万kW × 0.5時間 = 5万kWh
このように、ΔkWは調整するための「能力」、kWhは実際に調整した「電力量」と考えると理解しやすくなります。
なお、需給調整市場では主に上げ調整力のΔkWを取引します。実際の調整指令に伴う電力量については、別途、調整電力量料金の精算が行われます。
4. 需給調整市場の5つの商品とは?
需給調整市場には、応動時間や継続時間の異なる5つの商品があります。
商品
応動時間
継続時間
一次調整力
10秒以内
5分以上
二次調整力①
5分以内
30分
二次調整力②
5分以内
30分
三次調整力①
15分以内
30分
三次調整力②
60分以内
30分
※電力需給調整力取引所が公表する商品要件に基づく。実際の取引には、応動時間・継続時間以外にも技術要件が定められています。
一次調整力:瞬間的な周波数変動に対応
一次調整力は、非常に短い時間で発生する需給変動に対応する調整力です。
発電設備の脱落などで周波数が急変した際に、迅速に応動する役割を担います。
5つの商品で最も速い応動が求められ、10秒以内に必要な出力変化を実現する能力が必要です。
二次調整力①:短周期の変動に対応
二次調整力①は、比較的短い周期の需給変動や電源脱落などに対応する商品です。
一般送配電事業者による周波数制御などに活用されます。
二次調整力②:長周期の予測誤差に対応
二次調整力②は、ゲートクローズ後に発生する比較的長い周期の需給予測誤差に対応する商品です。
二次調整力①と応動時間は同じですが、対象とする変動の性質が異なります。
三次調整力①:需給予測のずれなどに対応
三次調整力①は、需要予測の誤差や再生可能エネルギーの出力予測誤差、発電設備のトラブルなどによって生じる需給のずれに対応します。
応動時間は15分以内です。
三次調整力②:再エネ予測誤差に対応
三次調整力②は、主にFIT特例制度に関連する再生可能エネルギーの予測誤差に対応する商品です。
応動時間は60分以内で、2021年4月に最初に市場取引が始まりました。
このように、需給調整市場では、変動の速さや原因に応じて異なる調整力を組み合わせています。
5. 需給調整市場とJEPXの違い
需給調整市場と混同しやすいのが、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場です。
どちらも電力に関係する市場ですが、主な役割が異なります。
比較項目
JEPXスポット市場
需給調整市場
主な目的
電力量の売買
需給調整能力の確保
主な取引対象
電力量(kWh)
調整力(ΔkW)
主な買い手
小売電気事業者など
一般送配電事業者
主な役割
電気を調達・販売する
需給のずれに備える
例えば、小売電気事業者が翌日に必要な電気をJEPXスポット市場で購入したとします。
しかし、翌日の実際の需要が予測と一致するとは限りません。
こうした計画と実績のずれや、より短い時間で発生する変動に対応するため、一般送配電事業者は調整力を確保します。
つまり、JEPXは主に電力量を売買する市場、需給調整市場は電力系統のバランスを維持する能力を確保する市場と整理できます。
なお、JEPXにはスポット市場以外の市場もあり、電力取引の仕組み全体はさらに複雑です。
6. どのような事業者が参加できる?
需給調整市場には、商品ごとの技術要件などを満たせば、さまざまな電源・需要側リソースが参加できます。
代表的なものには、火力発電、揚水発電、蓄電池、自家発電設備、デマンドレスポンス(DR)などがあります。
DRとは、需要家が電気の使用量を調整する仕組みです。
例えば、電力が不足しそうな時間帯に工場の電力使用量を減らすことで、発電量を増やす場合と同様に需給バランスの改善に貢献できます。
また、蓄電池は充放電を比較的素早く制御できるため、調整力の供給手段として注目されています。
ただし、どの設備でも自由に参加できるわけではありません。商品ごとの応動性能や継続時間、監視・制御などの要件を満たす必要があります。
7. 需給調整市場が抱える課題
需給調整市場は、電力の安定供給を支える重要な制度ですが、課題もあります。
調整力の応札不足
市場では、一般送配電事業者が必要とする募集量に対して、事業者からの応札量が不足するケースが問題となってきました。
応札量が不足すると、必要な調整力を市場で十分に確保できないおそれがあります。
調達費用の上昇
市場に参加するリソースが限られると、競争が十分に働かず、調達費用が高くなる可能性があります。
そのため、入札価格の規律や調達量の見直しなどについて、制度的な検討が進められています。
新しいリソースの活用
今後の重要なテーマの一つが、蓄電池やDRなどの活用拡大です。
従来の大規模発電所だけでなく、多様なリソースが市場に参加することで、調整力の確保や競争の促進につながることが期待されます。
8. まとめ:需給調整市場は電力の安定供給を支える市場
需給調整市場は、電気の需要と供給を常に一致させるために必要な調整力を取引する市場です。
押さえておきたいポイントは次の5つです。
- 一般送配電事業者が必要な調整力を調達する市場である
- 主にΔkWという「調整できる能力」を取引する
- 応動時間や役割の異なる5つの商品がある
- JEPXスポット市場とは取引の目的が異なる
- 応札不足や調達費用、新しいリソースの参加が重要な課題となっている
再生可能エネルギーの導入拡大や蓄電池の普及が進むなか、電力系統の柔軟性をどのように確保するかは、ますます重要なテーマになっています。
需給調整市場は、電力の安定供給と市場競争の両立を考えるうえで、今後も注目したい制度です。
参考資料
- 電力需給調整力取引所「需給調整市場とは」
- 電力需給調整力取引所「よくあるご質問」
- 電力広域的運営推進機関「需給調整市場の検討・詳細設計」
- 電力・ガス取引監視等委員会「需給調整市場ガイドラインの改定の建議について」
制度・商品要件は2026年10月時点の公表情報に基づきます。

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