「日本はLNGをいくらで輸入しているのか」「JKMが上がったのに、なぜ日本の平均LNG輸入価格は同じように動かないのか」。こうした疑問を解くための基礎資料が、財務省の通関統計(貿易統計)です。
この記事では、LNGの輸入数量・輸入金額から平均輸入単価を求める方法、CIFとFOBの違い、JCCとJKMの関係、発電燃料費への換算、統計の調べ方まで解説します。JKMの市場価格を説明する記事とは異なり、日本に実際に輸入されたLNGの実績値を読むことに焦点を当てます。
1. 通関統計とは?輸入数量・金額を把握する公的統計
財務省が公表する普通貿易統計は、日本から輸出・日本へ輸入された貨物の数量と金額を、品目別・相手国別・月別などに集計した統計です。税関への輸出入申告を基礎としており、電力・ガス分野ではLNGや原油、石炭などの輸入動向を確認できます。財務省「貿易統計とは何ですか」。
| 確認できる情報 | LNGでの使い道 |
|---|---|
| 輸入数量 | 日本が何トンのLNGを輸入したか |
| 輸入金額 | LNG輸入に計上された金額(原則CIFベース) |
| 相手国・地域 | 供給国別の数量・金額・平均単価を比較 |
| 月次・年次の推移 | 輸入量や単価の増減を分析 |
注意点は、通関統計が示すのは通関された貨物の実績であって、LNGスポット市場のリアルタイム価格や、発電事業者の個別調達契約価格そのものではないことです。
2. LNG平均輸入価格の計算方法
平均輸入単価は、同じ対象期間・同じ品目について、輸入金額÷輸入数量で計算します。
| 項目 | 説明用の仮定値 |
|---|---|
| 輸入金額 | 5,000億円 |
| 輸入数量 | 500万トン |
| 平均輸入単価 | 100,000円/トン(10万円/トン) |
5,000億円 ÷ 500万トン=10万円/トン。実際の財務省データは金額が千円単位で掲載される場合があるため、単位を円に揃えてから計算してください。

例えば数量がトン、金額が千円のデータなら、平均単価(円/トン)=金額(千円)×1,000÷数量(トン)です。単位の読み違いは、価格を1,000倍誤って計算する原因になります。
3. CIF価格とFOB価格の違い
通関統計では、原則として輸入金額はCIF価格、輸出金額はFOB価格で集計されます。CIFは貨物代金に仕向港までの運賃と保険料を含む価格です。税関「貿易統計 よくある質問」。
| 項目 | CIF | FOB |
|---|---|---|
| 略称 | Cost, Insurance and Freight | Free On Board |
| 含まれる主な範囲 | 貨物価格+仕向港までの運賃・保険料 | 船積み時点までの費用を反映した貨物価格 |
| 通関統計での基本的な扱い | 輸入金額 | 輸出金額 |
| LNG分析での意味 | 日本への輸入CIF単価を把握 | 輸出側の価格と比較する際の基準 |
なお、輸入CIF単価=発電所で実際に使う燃料の総コストではありません。受入基地から発電所までの取り扱い、貯蔵、気化、在庫評価、税・諸費用などは別途検討が必要です。
4. JCCとは?原油の通関価格とLNG契約の関係
JCC(Japan Crude Cocktail)は、一般に日本の原油平均輸入CIF価格を指す名称です。日本のLNG長期契約の一部では、原油価格に連動する価格算定式の参照指標としてJCCなどが使われます。
ここで混同しやすいのが、JCCは原油の輸入価格であり、LNGそのものの輸入価格ではないことです。LNG契約価格は、参照する原油指標に係数・定数・価格決定のタイムラグなどを組み合わせて算定される場合があります。
例えば説明用の単純化した契約式を「LNG価格(USD/MMBtu)=0.12×JCC(USD/bbl)+0.5」と仮定すると、JCCが80USD/bblならLNG価格は10.1USD/MMBtuです。ただし、この式は仮定例であり、契約共通の標準式ではありません。
5. JKM・JCC・LNG通関統計はどう違う?

| 指標 | 対象 | 価格の性格 | 主な単位 |
|---|---|---|---|
| JKM | 北東アジア向けLNGスポットカーゴ | Plattsが評価する市場指標 | USD/MMBtu |
| JCC | 日本に輸入された原油 | 通関実績に基づく平均原油輸入CIF価格 | USD/bbl、円/kL |
| LNG平均輸入CIF価格 | 日本に輸入されたLNG | 通関実績に基づく平均LNG輸入価格 | 円/トン、USD/MMBtuなど |
JKMは「JKMとは?LNG価格指標の仕組み」で詳しく説明しています。日本のLNG輸入には長期契約、スポット調達、さまざまな価格指標や価格決定期間が混在するため、JKMとLNG平均輸入CIF価格が一致するとは限りません。
6. 実データで見る日本のLNG輸入価格とJCC
JOGMECが財務省貿易統計速報に基づいて公表した2026年7月の数値を見てみましょう。ここでいう2026年7月は通関・輸入実績の対象月であり、JKMの同月の価格と同じ対象の取引ではありません。
| 2026年7月の指標 | 公表値 |
|---|---|
| 日本のLNG平均輸入CIF価格 | 109,298円/トン |
| LNG平均輸入価格の熱量換算 | 13.03USD/MMBtu |
| 日本のLNG輸入数量 | 501万トン |
| JCC(原油平均輸入CIF価格) | 114.35USD/bbl |
| JCC(円建て) | 116,383円/kL |
出典:JOGMEC「2026年8月:天然ガス・LNG関連情報」。LNG価格・数量は2026年7月の貿易統計速報に基づく値であり、確報などで改訂される可能性があります。
この数字から分かるのは、日本のLNG平均輸入単価を、JKMのある日のスポット価格と直接比較して「割高・割安」と即断できないということです。契約の参照指標、価格決定期間、通関時点、受渡条件、換算方法を揃える必要があります。
7. LNG通関価格を発電燃料費(円/kWh)に換算する
LNG輸入価格を電力価格と比較したい場合は、円/トンから円/MMBtu、さらに円/kWhへ換算します。LNGの発熱量は組成によって異なるため、ここでは1トン=52MMBtu(高位発熱量・HHV)という説明用の仮定を置きます。
| 換算項目 | 仮定値・計算 |
|---|---|
| LNG平均輸入単価 | 100,000円/トン |
| LNG発熱量(HHV) | 52MMBtu/トン(仮定) |
| 熱量当たり単価 | 100,000÷52=約1,923円/MMBtu |
| 発電効率(HHV) | 50%(仮定) |
| 発電電力量当たりの燃料費 | 1,923÷293.071÷0.50=約13.12円/kWh |

換算の基礎は1MMBtu=約293.071kWh(熱量)です。発電効率がHHV基準なら発熱量もHHV基準で揃えてください。LHV基準の発電効率と混在させると、燃料費の試算に誤差が生じます。
また、この13.12円/kWhは通関CIF価格から求めた概算の燃料費相当額であり、実際の発電所の燃料費や電力市場の約定価格ではありません。発電採算との関係はスパークスプレッドの解説も参照してください。
8. 財務省の通関統計を調べる手順
財務省の「検索機能の使い方」と「統計表一覧」を使うと、品目別・相手国別の輸入数量・金額を確認できます。
- ① 対象を決める:輸入、対象月、LNGの品目、全国合計か相手国別かを決める。
- ② 品目を確認する:統計品目番号は9桁。検索時点で適用される輸入統計品目表からLNGに対応する番号を確認する。
- ③ 数量と金額を取得する:同じ期間・同じ品目・同じ国範囲のデータを使う。
- ④ 単位を揃える:金額が千円単位なら円に換算し、数量単位も確認する。
- ⑤ 平均輸入単価を計算する:輸入金額(円)÷輸入数量(トン)で円/トンを求める。
- ⑥ 速報・確報を区別する:分析に用いたデータの公表時点と改訂状況を記録する。
統計表のCSVはe-Stat「普通貿易統計・統計品別表(輸入)」からも探せます。時系列分析では、統計品目番号の改定や速報から確報への変更にも注意してください。
9. 通関統計を電力実務に活用する際の注意点
| 注意点 | なぜ重要か |
|---|---|
| 時間差 | LNGの契約価格決定時点と通関月が異なることがある |
| 価格構成 | 長期契約・スポット契約・原油リンク等が混在する |
| 為替 | 円建て輸入単価は外貨建て価格と為替の両方に影響される |
| 熱量差 | 円/トンと円/MMBtuの換算は発熱量の前提に依存する |
| 費用範囲 | 通関CIF価格は発電所の総燃料コストではない |
| 統計の改訂 | 速報・確報・確定値で数値が変わり得る |
実務では、JKM、JCC、LNG平均輸入CIF価格、電力価格を一枚のグラフに並べるだけでなく、単位・対象期間・価格決定のタイムラグ・為替・発熱量を揃えて比較することが重要です。
10. まとめ
通関統計は、日本が実際に輸入したLNGの数量と金額を確認できる公的な基礎データです。平均輸入単価は「輸入金額÷輸入数量」で求められますが、JKMのスポット価格やJCCの原油輸入価格とは意味が異なります。
通関統計を正しく読むことで、日本のLNG調達コストの実績、原油リンク契約の影響、発電燃料費への波及を、より客観的に分析できるようになります。

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