「JKMが上昇した」というニュースを見て、なぜ日本の電力価格に影響するのか疑問に感じたことはありませんか。JKMは、LNG火力の燃料調達や発電採算を理解するうえで重要な価格指標です。一方で、JKMの上昇が、そのまま同じ幅でJEPX価格に反映されるわけではありません。
この記事では、JKMの定義・価格評価方法から、原油リンク・TTFとの違い、燃料費の計算、スパークスプレッド、ヘッジの考え方までを、数値例と図解で解説します。計算例の価格・為替は説明用の仮定値であり、実際の市況を示すものではありません。
1. JKMとは?北東アジア向けLNGの価格指標
JKM(Japan Korea Marker)とは、S&P Global Commodity InsightsのPlattsが評価・公表する、北東アジア向けスポットLNGカーゴの代表的な価格指標です。単位は通常米ドル/MMBtu(100万英国熱量単位当たりの米ドル)です。
名称にJapan・Koreaとありますが、現在の評価対象は日本・韓国・中国・台湾の受入港向けのLNGカーゴです。受渡条件はDES(Delivered Ex-Ship:本船持込渡し)で、買い手側の受入港に到着するカーゴの価値を示します。Platts公式のJKM解説および2025年の評価対象地域の明確化を参照してください。
| 項目 | JKMの基本 |
|---|---|
| 正式名称 | Japan Korea Marker |
| 評価・公表主体 | Platts(S&P Global Commodity Insights) |
| 対象 | 北東アジア向けスポットLNGカーゴ |
| 受渡条件 | DES(本船持込渡し) |
| 対象地域 | 日本・韓国・中国・台湾 |
| 表示単位 | USD/MMBtu |
| 主な用途 | LNG現物取引の価格参照、先物・スワップ、燃料価格リスク管理 |
注意したいのは、JKMは価格評価(アセスメント)であり、全てのLNGカーゴがその価格で売買されるわけではないことです。実際の契約価格は受渡時期、品質、取引条件、価格算定期間などによって異なります。
2. JKMの価格はどう決まる?Plattsの評価方法
JKMは、取引所の板寄せで決まる単一の約定価格ではありません。Plattsは、実際の取引、売り気配・買い気配、取引可能な価格の情報をもとに、Market on Close(MOC)という手法で所定時点の市場価値を評価します。アジアLNGの評価時点は通常、シンガポール時間16時30分です。
したがって、JKMの値動きを読む際には「いつ引き渡すカーゴの評価か」「現物評価か先物価格か」「日次価格か月間平均か」を区別する必要があります。出典:Platts公式。
3. JKM・原油リンク・TTF・Henry Hubの違い
LNG調達価格の決まり方は一つではありません。日本企業の長期契約には原油価格に連動するものが多く、スポットLNGではJKM、欧州のガス市場ではTTF、米国ではHenry Hubなどが参照されます。
| 指標・方式 | 対象・性格 | 代表的な単位 | 電力実務での着眼点 |
|---|---|---|---|
| JKM | 北東アジア向けスポットLNGの価格評価 | USD/MMBtu | アジアのスポット調達・JKM連動契約 |
| JCC・Brent等の原油リンク | 原油価格を参照するLNG契約の価格算定方式 | 原油はUSD/bbl等 | 契約係数・タイムラグが重要 |
| TTF | 欧州の天然ガス取引拠点の価格指標 | EUR/MWh等 | 欧州とのLNGカーゴ獲得競争 |
| Henry Hub | 米国の天然ガス取引拠点の価格指標 | USD/MMBtu | 米国産LNGの原料ガス価格 |
例えば原油リンクLNGの価格式は、説明用に「LNG価格(USD/MMBtu)=0.13 × 原油価格(USD/bbl)+定数」のように表せます。ただし係数・定数・参照期間は契約ごとに異なり、この式が共通の市場標準という意味ではありません。
JOGMECの2025年度LNG売買契約調査では、日本企業の2024年度ターム契約数量のうち、JCC・Brent等の原油価格を参照する契約が約70%と報告されています。つまり、日本が輸入するLNGの価格全体をJKMだけで説明することはできません。
4. JKMが日本の電力価格に影響する仕組み
JKMが上がると、JKM連動のLNG調達コストやスポットLNGの追加調達コストが上昇し得ます。LNG火力の燃料費が上昇し、その発電所が電力市場の価格形成に影響する場合、JEPXスポット価格にも上昇圧力がかかる可能性があります。

ただし、JKMとJEPXの価格は一対一では連動しません。発電用LNGの調達契約、燃料在庫、価格転嫁のタイムラグ、石炭・再エネ・原子力など他電源の供給、需給状況、連系線制約などが関係するためです。メリットオーダーや限界電源の考え方も重要です。
5. 計算例:JKMが1ドル/MMBtu上がると燃料費はいくら増える?
ここが実務上の重要ポイントです。JKMの単位USD/MMBtuを、LNG火力の発電電力量当たりの燃料費円/kWhに換算します。
| 前提条件 | 仮定値 | 意味 |
|---|---|---|
| JKMの上昇幅 | +1 USD/MMBtu | 燃料単価の変化 |
| 為替レート | 150円/USD | 円への換算 |
| 発電効率(HHV) | 50% | 燃料投入熱量に対する発電電力量 |
| 熱量換算 | 1 MMBtu ≒ 293.071 kWh(熱) | MMBtuを熱量のkWhへ換算 |
| その他費用 | 考慮しない | 輸送費、税、起動費、排出費用などを除外 |
計算式は、燃料費増加額(円/kWh)=JKM上昇幅(USD/MMBtu)× 為替(円/USD)÷[293.071 × 発電効率(HHV)]です。
1 × 150 ÷(293.071 × 0.50)≒ 1.02円/kWh。つまり、燃料費がJKMに完全連動する仮定では、JKMが1ドル/MMBtu上がると、HHV効率50%のLNG火力の燃料費は約1.02円/kWh増加します。
発電効率の違いによる影響は次のとおりです。
| HHV発電効率 | JKM +1 USD/MMBtu | JKM +3 USD/MMBtu |
|---|---|---|
| 45% | 約1.14円/kWh | 約3.41円/kWh |
| 50% | 約1.02円/kWh | 約3.07円/kWh |
| 60% | 約0.85円/kWh | 約2.56円/kWh |

効率が高いほど同じ電力量を発電するために必要な燃料熱量が少なく、JKM上昇に対する燃料費感応度も小さくなります。なお、LHV(低位発熱量)基準の発電効率とHHV(高位発熱量)基準の熱量を混在させないことが計算上の注意点です。
6. JKMとスパークスプレッドの関係
スパークスプレッドは、電力販売価格からガス火力の燃料費を差し引いた簡易的な発電マージンです。電力価格が変わらないままJKMだけが上昇すると、一般にスパークスプレッドは縮小します。
ここでは電力価格を12円/kWh、為替を150円/USD、HHV効率を50%に固定し、JKMだけを変化させます。
| JKM(USD/MMBtu) | 燃料費(円/kWh) | 電力価格(円/kWh) | 簡易スパークスプレッド(円/kWh) |
|---|---|---|---|
| 8 | 8.19 | 12.00 | +3.81 |
| 10 | 10.24 | 12.00 | +1.76 |
| 12 | 12.28 | 12.00 | −0.28 |
| 14 | 14.33 | 12.00 | −2.33 |
| 16 | 16.38 | 12.00 | −4.38 |

この簡易スプレッドは、燃料費以外の変動費、起動停止費、CO₂排出関連費用、固定費などを含まないため、発電所の最終利益や稼働判断をそのまま表す指標ではありません。詳しくはスパークスプレッドの計算方法とLNG価格との関係で解説しています。
7. JKMが変動する主な要因
| 要因 | JKMに影響する経路 | 確認したい情報 |
|---|---|---|
| アジアの気温・需要 | 冷暖房や発電向けのLNG需要が増減 | 日本・中国・韓国などの需要動向 |
| 欧州のガス需給・TTF | 欧州向けとアジア向けでLNGカーゴを競合 | TTF、JKM−TTF値差 |
| LNG生産設備のトラブル | 供給量減少や納入遅延の懸念 | 液化プラント稼働・供給障害 |
| 海上輸送・地政学リスク | 輸送制約や航海距離・運賃が変動 | 海峡通航、運賃、船舶需給 |
| 在庫・受入能力 | 追加スポット調達の必要性が変化 | LNG在庫、受入基地・貯蔵状況 |
例えば、欧州のガス価格が上がり、欧州向けLNGの収益性が高まると、仕向地変更可能なカーゴが欧州へ向かいやすくなり、アジアの調達競争に影響することがあります。IEAは2026年第3四半期のガス市場報告で、JKMとTTFの値差変化がLNGカーゴの流れに影響したと分析しています。出典:IEA Gas Market Report Q3-2026。
8. 電力取引・リスク管理ではJKMをどう使う?
発電・電力販売のポートフォリオを管理する際には、電力価格と燃料価格を別々に見るだけでなく、電力価格・JKM・為替の組み合わせで収支を評価することが重要です。
- 価格リスク:JKMの上昇・下落によってLNG調達費用が変動する。
- ベーシスリスク:実際のLNG調達契約価格がJKMと完全には一致しない。原油リンク契約などでは特に重要。
- タイミングリスク:LNGの価格決定期間、入着月、発電・電力受渡期間が一致しない。
- 為替リスク:JKMがUSD建てであるため、円換算した燃料費はUSD/JPYにも左右される。
- クロスコモディティ・リスク:JKMが上がっても電力価格が同程度に上がるとは限らず、スパークスプレッドが変動する。
JKM先物などのデリバティブは燃料価格リスク管理の選択肢ですが、契約の参照指標、限月、数量、通貨、清算・証拠金等の条件を揃える必要があります。JPX「LNG(プラッツJKM)先物」には、日本のJKM先物の商品概要と決済価格の算定方法が掲載されています。
9. JKMを見る際に混同しやすい3つの価格
| 価格 | 何を表す? | 混同すると起きる問題 |
|---|---|---|
| Platts JKM | 北東アジア向けスポットLNGの評価価格 | 日本の全LNG調達単価だと思い込む |
| 日本のLNG平均輸入価格 | 長期・スポット等を含む実際の輸入統計の平均値 | JKMと同じ時点・契約条件だと思い込む |
| JEPXスポット価格 | 電力の受渡エリア・30分コマごとの約定価格 | LNG燃料費と一対一で連動すると誤解する |
とくに、JOGMECが公表する天然ガス・LNG関連情報では、JKMの値動きと日本のLNG平均輸入価格が別々に整理されています。価格の対象期間と統計の意味を揃えて比較することが重要です。
10. まとめ
JKMは北東アジア向けLNGスポットカーゴの価格指標で、LNG火力の燃料費や電力取引の採算を考える際の重要な変数です。為替150円/USD、HHV発電効率50%の仮定では、JKMが1ドル/MMBtu上がると燃料費は約1.02円/kWh上昇します。
ただし、実際の電力価格への波及は、燃料調達契約、在庫、電源構成、需給などに左右されます。「JKMの変動」「発電燃料費への換算」「電力価格への波及」を分けて考えることが、正確な分析の出発点です。

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