脱炭素や再生可能エネルギーに関するニュースで、よく目にする「非化石価値」や「非化石証書」という言葉。
電力業界では重要な制度ですが、「電気と何が違うのか」「なぜ証書を売買するのか」「再エネと同じ意味なのか」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
非化石価値とは、石炭や天然ガスなどの化石燃料を使わずに発電された電気が持つ、環境面などの付加価値のことです。
この価値を電気そのものとは切り離して取引できるようにした仕組みが「非化石証書」です。
この記事では、非化石価値の基本から、非化石証書の種類、JEPXでの取引、企業が活用するメリットまで、初心者にもわかりやすく解説します。
1. 非化石価値とは?
非化石価値とは、化石燃料を使用しない電源から発電された電気が持つ価値のことです。
代表的な非化石電源には、次のようなものがあります。
- 太陽光発電
- 風力発電
- 水力発電
- 地熱発電
- 原子力発電
例えば、太陽光発電と石炭火力発電で、それぞれ100kWhの電気を発電したとします。
どちらも電気としては100kWhですが、発電方法は異なります。
太陽光発電は、発電時に化石燃料を燃焼させません。一方、石炭火力発電では石炭を燃焼させるため、CO₂が排出されます。
こうした発電方法の違いに由来する価値が、非化石価値です。
「非化石」と「再エネ」は同じではない
ここで重要なのが、非化石電源=再生可能エネルギーではないという点です。
太陽光や風力、水力などは、非化石電源であると同時に再生可能エネルギーでもあります。
しかし、原子力発電は非化石電源に含まれる一方、再生可能エネルギーには含まれません。
つまり、非化石価値があることと、再エネ由来であることは区別する必要があります。
2. なぜ非化石価値を電気と分けて取引するのか?
電力系統では、さまざまな発電所で作られた電気が送電網を通じて供給されています。
そのため、一般的な系統から受け取る電気について、特定の発電所で作られた電気だけを物理的に取り出すことはできません。
一方、企業の中には「再生可能エネルギー由来の電気を使いたい」「電力使用に伴うCO₂排出量を削減したい」と考えるところがあります。
そこで、電気の物理的な供給と、発電方法に由来する環境価値を分けて扱う仕組みが整備されました。
例えば、ある企業が電力会社から通常の電気を購入し、別途、適切な再エネ由来の非化石証書を取得した場合、制度上の要件を満たす範囲で、電力使用に再エネ価値を付与できます。
この仕組みによって、企業は電気の調達方法を大きく変更せずに、環境価値を活用する選択肢を持てるようになります。
3. 非化石証書とは?
非化石証書とは、非化石電源から発電された電気の価値を証書化したものです。
証書は電力量に対応して発行・取引され、通常、kWhを単位として扱います。
例えば、ある企業が年間100万kWhの電気を使用しているとします。
この企業が100万kWh分の適切な非化石証書を取得し、必要な条件を満たして使用すれば、その電力使用に対応する環境価値を活用できます。
ただし、証書を購入したからといって、実際に使用した電気の物理的な発電源が変わるわけではありません。
電気の物理的な流れと、環境価値の帰属は別のものとして理解することが重要です。
非化石証書が持つ3つの価値
非化石証書には、主に次の3つの価値が整理されています。
価値
内容
非化石価値
高度化法上の非化石電源比率の算定に活用できる価値
ゼロエミ価値
制度に従って電気のCO₂排出係数の算定に活用できる価値
環境表示価値
電気の環境面の付加価値を需要家などに表示・主張するための価値
ただし、実際にどのような表示や排出量算定に利用できるかは、証書の種類や適用する制度によって異なります。
4. 非化石証書の3つの種類
日本の非化石証書は、大きく3種類に分けられます。
種類
主な対象電源
再エネ由来か
FIT非化石証書
FIT制度の対象となる再エネ電源
はい
非FIT非化石証書(再エネ指定)
FIP電源、大型水力など
はい
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
原子力発電など
必ずしも再エネではない
① FIT非化石証書
FIT非化石証書は、固定価格買取制度(FIT)の対象となる再生可能エネルギーの電気に由来する証書です。
FIT制度では、対象となる再エネ電気を一定の価格で買い取る仕組みが設けられています。
この電気に由来する環境価値は、非化石証書として取引されます。
FIT非化石証書は、後述する「再エネ価値取引市場」で売買されています。
② 非FIT非化石証書(再エネ指定)
FIT制度によらない再エネ電源から発電された電気に由来する証書です。
例えば、FIP制度の対象電源や大型水力発電などが含まれます。
FIT非化石証書と同じく再エネ由来ですが、制度上の発行・取引の仕組みが異なります。
③ 非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
原子力発電など、再エネには分類されない非化石電源に由来する証書です。
非化石価値はありますが、再エネ由来とは限りません。
そのため、企業が「再エネ100%」を目指す場合には、再エネ指定のない証書を同じように利用できるわけではありません。
非化石証書を選ぶ際は、FIT・非FITだけでなく、再エネ指定の有無を確認することが重要です。
5. 非化石価値取引市場の仕組み
日本では、日本卸電力取引所(JEPX)において非化石価値の取引が行われています。
非化石価値取引市場は、2018年度に始まりました。
その後、2021年度に市場が再編され、現在は主に次の2つに分かれています。
再エネ価値取引市場
再エネ価値取引市場では、FIT非化石証書が取引されています。
小売電気事業者だけでなく、需要家や仲介事業者も、所定の条件を満たせば市場に参加できます。
企業が再エネ価値を調達するための重要な仕組みの一つです。
高度化法義務達成市場
高度化法義務達成市場では、非FIT非化石証書が取引されています。
主な買い手は小売電気事業者です。
高度化法では、一定の対象となる小売電気事業者に対して、非化石電源の利用に関する目標が設けられています。
この市場は、小売電気事業者がその目標の達成に必要な非化石価値を調達するための仕組みです。
なお、非FIT非化石証書には、市場取引とは別に相対取引による調達の仕組みもあります。
6. 非化石証書の価格はどう決まる?
非化石証書の価格は、取引市場や証書の種類によって異なります。
JEPXの市場では、売り手と買い手による入札を通じて取引が行われます。
ただし、すべての証書が同じ価格決定方式で取引されるわけではありません。
また、制度上の価格制限が設定される場合もあります。
価格に影響する主な要因としては、証書の供給量、企業の再エネ調達需要、制度上の目標、取引ルールなどが挙げられます。
市場価格は変動するため、実際の価格を確認したい場合は、JEPXが公表する最新の約定結果を見る必要があります。
7. 企業が非化石証書を購入するメリット
CO₂排出量の算定に活用できる
企業活動に伴う温室効果ガス排出量の算定では、購入した電気に伴う間接排出(Scope 2)が重要な項目になります。
適切な非化石証書を利用することで、適用される算定ルールに従い、電力使用に伴う排出量の算定に反映できる場合があります。
ただし、証書を取得すれば無条件に排出量をゼロにできるわけではありません。
対象期間、証書の属性、使用量との対応、算定・報告制度の要件などを確認する必要があります。
再エネ調達の選択肢が増える
企業が再エネを利用する方法には、再エネ電力メニューの契約、太陽光発電設備の導入、PPA(電力購入契約)などがあります。
非化石証書も、再エネ価値を調達するための選択肢の一つです。
ただし、再エネとしての主張には、再エネ由来であることなどの要件を満たす必要があります。
RE100などへの対応に活用できる
RE100は、企業が事業活動で使用する電力を再生可能エネルギーに転換することを目指す国際的なイニシアティブです。
非化石証書の中には、RE100への報告に利用できるものがあります。
ただし、非化石証書であれば何でもRE100に利用できるわけではありません。
発電設備の情報を確認できるトラッキングの有無や、電力の調達形態など、RE100が定める要件を満たす必要があります。
8. トラッキングとは?
非化石証書を理解するうえで、もう一つ重要なのが「トラッキング」です。
トラッキングとは、証書の由来となる発電設備などの情報を確認できるようにする仕組みです。
例えば、同じ再エネ由来の証書でも、どの発電所で、どのような電源によって発電されたのかが確認できることには意味があります。
企業が環境価値を対外的に主張する場合、こうした情報が重要になることがあります。
特に、国際的な再エネ調達基準への対応では、証書の種類だけでなく、その属性やトラッキング情報も確認する必要があります。
9. グリーン電力証書・J-クレジットとの違い
日本には、非化石証書以外にも環境価値を扱う制度があります。
代表的なのが「グリーン電力証書」と「J-クレジット」です。
制度
主な特徴
非化石証書
非化石電源の価値を証書化する仕組み
グリーン電力証書
再エネによる発電の環境価値を証書化する仕組み
J-クレジット
省エネ・再エネ導入・森林管理などによる排出削減量や吸収量を認証する制度
これらは、制度の目的や対象となる価値が異なります。
また、企業の排出量算定やRE100などでの利用可否も一律ではありません。
どの制度を利用するかは、企業が達成したい目的と、適用されるルールに応じて判断する必要があります。
10. まとめ:非化石価値は電力の脱炭素化を支える仕組み
非化石価値とは、化石燃料を使わない発電方法に由来する価値のことです。
その価値を電気そのものと分けて取引できるようにしたものが、非化石証書です。
今回のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 非化石価値は、非化石電源に由来する価値
- 非化石電源には再エネだけでなく原子力も含まれる
- 非化石証書にはFITと非FITがあり、再エネ指定の有無も重要
- JEPXには再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場がある
- 企業は証書を脱炭素や再エネ調達に活用できるが、利用条件の確認が必要
非化石価値取引は、電気の安定供給や経済性だけでなく、環境面の価値をどのように評価するかという点でも重要な仕組みです。
今後、企業の脱炭素化や再生可能エネルギーの導入が進むなかで、非化石価値の役割は引き続き注目されるでしょう。
参考資料
- 資源エネルギー庁|非化石証書に関するよくある質問
- 経済産業省|非化石証書と非化石価値取引市場の種類(審議会資料・PDF)
- JEPX|非化石価値取引の取引概要
- JEPX|非化石価値取引の市場情報
- 経済産業省|国際的な気候変動イニシアティブへの対応
本記事は2026年10月時点で確認できる公表資料に基づいています。制度や取引条件は変更される場合があります。

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