「小売電気事業者は、3年前に5割、1年前に7割の電力を確保する」。最近の電力制度の議論で、この数字を見かけることが増えました。
これは、小売電気事業者に対して、将来販売する電気の一定量を前もって調達しておくことを求める、「量的な供給力確保」の話です。容量市場の費用負担とも、日々の需給調整とも関係しますが、確認する対象や時間軸が異なります。
この記事では、2026年3月の制度設計WG取りまとめ等に示された基本的な方向性をもとに、5割・7割の意味と実務上のポイントを整理します。個別の算入条件や運用方法は、今後の実施ルールも確認する必要があります。
1. 小売の供給力確保義務とは
小売電気事業者は、家庭や企業に電気を販売するため、発電事業者との契約や卸電力市場などを通じて電気を調達します。電気事業法には、正当な理由がある場合を除き、需要に応じるために必要な供給能力を確保する義務が定められています。
この基本的な義務については、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の容量拠出金に関する説明でも整理されています。今回の5割・7割は、この供給責任を踏まえ、数年前の段階でどれだけの電力量を確保しておくかを具体化する議論です。
背景には、燃料価格や卸電力価格の高騰によって、小売事業者の事業継続や需要家への供給に支障が生じた経験があります。中長期取引市場検討WGの資料では、需要家への安定・継続的な供給や料金の急激な変動の抑制が制度検討の背景として示されています。
2. 「3年前5割・1年前7割」は、段階的に確保量を増やす仕組み
電気を実際に供給する年度を「N年度」とすると、基本となる水準は次のとおりです。制度設計WGの取りまとめでは、3年度前と1年度前の二段階で確保を求める方向が示されています。
| 確認する時点 | 基本となる確保割合 | 小規模事業者の当初の水準 |
|---|---|---|
| 実需給の3年度前(N−3年度) | 5割(50%) | 2.5割(25%) |
| 実需給の1年度前(N−1年度) | 7割(70%) | 5割(50%) |
5割と7割を足して、合計12割を調達するという意味ではありません。同じ供給年度に向けて、早い段階では5割、その後は合計7割まで確保を積み上げるイメージです。
小規模事業者については、小売電気事業者の量的な供給力確保に関する資料で、販売電力量5億kWh未満の事業者に対し、運用開始から一定期間、水準を軽減する方向が示されています。恒久的に義務が免除されるという意味ではありません。
3. 何の5割・7割なのか――分母とkWhに注意
対象となるのは、電気を供給できる能力を表すkWではなく、一定期間に供給する電力量のkWhです。また、制度設計WGの議論の整理では、確保割合を計算する需要の基礎として、販売実績を用いる方向が示されています。
制度の概要では「想定需要の5割・7割」と説明されることもありますが、事業者が自由に置いた需要予測に割合を掛ければよい、と理解するのは適切ではありません。参照する実績期間や需要の増減の反映方法など、具体的な算定ルールが重要になります。
計算のイメージをつかむため、算定の基礎となる電力量を10億kWhで固定した例を考えてみましょう。
| 時点 | 確保量のイメージ | 前段階からの積み増し |
|---|---|---|
| 3年度前 | 10億kWh × 50% = 5億kWh | まず5億kWhを確保 |
| 1年度前 | 10億kWh × 70% = 7億kWh | 既に確保した5億kWhが有効なら、さらに2億kWh |
この例は割合を説明するための単純化です。実際には、算定の基礎となる電力量や契約状況が変われば必要な追加量も変わります。また、1年度前に7割を確保していても、実需給では残りの需要を含めて供給する責任があります。
4. いつから始まるのか――「供給計画の年度」と「供給する年度」を分ける
取りまとめでは、2030年度の供給計画(2030年2月提出)から確保状況を確認する方向が示されています。制度の実施スケジュールに関する資料では、調達環境の整備として2028年度の中長期取引市場の取引開始も想定されています。
ここで注意したいのが、「2030年度供給計画」は2030年度に入ってから提出するものではなく、前年度に提出する計画だという点です。2030年2月は、年度でいえば2029年度に当たります。
| 2030年2月の提出時点を年度で整理 | 対象となる供給年度 | 基本水準 |
|---|---|---|
| 2029年度は、その供給年度の1年度前 | 2030年度供給分 | 7割 |
| 2029年度は、その供給年度の3年度前 | 2032年度供給分 | 5割 |
上の表は、N−3年度・N−1年度の関係を年度に当てはめたものです。開始時点で確認する対象や経過措置の詳細は、実施ルールによる確認が必要です。「2030年度供給分について、2027年度までに5割を確保する義務が既に始まっている」と読み替えないようにしましょう。
5. 容量市場・インバランスとは何が違うのか
供給力という言葉は複数の制度で使われます。今回の話を理解するには、「何を確保するのか」と「いつ確認するのか」を分けると整理しやすくなります。
| 制度・仕組み | 主に扱う対象 | 小売にとっての意味 |
|---|---|---|
| 容量市場 | 将来の供給能力(kW) | 電源の供給能力を維持・確保する仕組みの費用を負担する |
| 量的な供給力確保 | 将来の供給に用いる電力量(kWh) | 数年前から一定量の調達を確保する |
| 計画値同時同量・インバランス精算 | 30分単位の計画と実績の差 | 実需給に向けた計画の調整と差分の精算を行う |
容量拠出金を支払うこと自体で、自社の顧客に販売する電力量を買えるわけではありません。また、年間の必要量を確保できていても、夏の昼間や冬の夕方など、各時間帯に必要な電気がそろっているとは限りません。
それぞれの仕組みは、容量市場の解説とインバランス料金の解説でも紹介しています。
6. 電力先物で価格を固定すれば、確保したことになるのか
電力の調達では、現物を受け取れることと、価格変動のリスクを抑えることを分けて考える必要があります。相対の卸契約などで将来受け取る電気を確保する行為と、差金決済の先物で価格変動をヘッジする行為は、役割が異なります。
経済産業省の取りまとめに対する意見への回答では、現物調達を伴わない金融商品である電力先物について、それ自体を供給力として評価することは難しい一方、現物調達と組み合わせた価格安定の役割が整理されています。
「価格をヘッジした量」と「現物の供給を確保した量」を、同じものとして数えないことがポイントです。先物を含む個々の調達手段の制度上の扱いは、具体的な算入条件を確認する必要があります。
なお、量的な確保の議論から、すべての卸契約を固定価格にしなければならない、と結論づけることもできません。価格条件と受渡し条件は別の論点です。先物の役割は電力先物取引の解説も参考にしてください。
7. 小売事業者は何を準備すればよいのか
実務では、まず供給年度ごとの調達状況を見えるようにすることが出発点です。契約の締結日だけでなく、いつ、どれだけの電気を受け取れるのかを整理する必要があります。
- 供給年度ごとに、販売実績・需要見通し・契約済みの受電量を並べる。
- 契約の対象期間、受渡し量、数量変更の条件を確認する。
- 現物の確保量と、先物などによる価格ヘッジ量を区別して管理する。
- 年間の合計量に加え、季節や時間帯ごとの不足・余剰も点検する。
先に調達するほど、価格や供給の見通しを立てやすくなる面があります。一方、顧客の離脱や販売量の減少で余剰が出る可能性もあります。確保割合だけを追うのではなく、販売契約の期間と調達契約の期間・数量を合わせて管理することが大切です。
未達時の対応については、制度設計WGの取りまとめで、運用開始当初は指導・勧告等による履行担保措置を基本に詳細を検討する方向が示されています。過去に比較された「容量拠出金の追加徴収案」を、そのまま確定した罰則として紹介しない点にも注意が必要です。
8. まとめ
「3年前5割・1年前7割」は、小売電気事業者が将来供給する電気について、電力量を段階的に確保しておく仕組みです。5割と7割は足し算ではなく、同じ供給年度に向けた確保水準の積み上げを表します。
押さえたいのは、kWhの調達を扱うこと、容量市場の費用負担とは別に考えること、価格ヘッジと現物確保を区別することの3点です。開始時期は2030年度供給計画を起点に整理し、算定方法や調達手段の条件などは、詳細設計の進展に合わせて確認していきましょう。

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