中長期取引市場とは?相対契約・スポット・先物との違いと供給力確保義務との関係

中長期取引市場とは? 相対契約・スポット・先物との違い

小売電気事業者が数年先の電気を確保するには、買いたいときに、必要な条件で調達できる環境が欠かせません。そのための仕組みとして整備が進められているのが、中長期取引市場です。

名前だけを見ると、「長期間にわたって電気を買う市場」「電力先物の別名」と感じるかもしれません。理解のポイントは、電気を買う時期と、実際に受け取る期間を分けることです。

この記事では、公式資料で示された基本設計をもとに、中長期取引市場の目的、商品の時間軸、相対契約・スポット市場・先物との違いを整理します。制度設計中のため、参加条件や商品の細目は最終的な市場規則で確認する必要があります。

1. 中長期取引市場とは

中長期取引市場は、将来の一定期間に受け渡す電気を、あらかじめ売買するための市場です。例えば「3年後の年度に、1年間にわたり電気を供給する」という取引を考えると、役割がつかみやすくなります。

政府は2026年6月19日の衆議院経済産業委員会での答弁で、中長期取引市場の整備には、小売による安定的な調達を促すとともに、発電事業者の電源投資や燃料調達の見通しを高める狙いがあると説明しています。

小売にとっては「将来販売する電気を買う場」、発電事業者にとっては「将来発電する電気を売る場」です。実際の電気の受渡しにつながる取引であることが、価格変動をヘッジする差金決済の先物との大きな違いです。

2. なぜ新しい市場が必要なのか

将来の電気を調達する手段は、これまでも相対契約や先渡市場、ベースロード市場などに存在していました。課題は、手段があることだけでは、必要な量を調達しやすいとは限らない点です。

経済産業省の中長期取引を促進する市場等に関する整理では、事業者ごとの卸売条件を比較しにくいことなどが課題として挙げられています。調達先や取引方法を増やし、価格の比較に使える指標を形成することも、市場整備に期待される役割です。

例えば、同じ「1年間の電気」でも、24時間一定量を受け取る契約と、平日の昼間だけ受け取る契約では価値が異なります。燃料価格による事後調整があるかどうかでも、見積もりの単価を単純には比べられません。取引条件を分かりやすくそろえることは、価格を判断しやすくするうえでも重要です。

ただし、市場ができれば必ず安く買えるという意味ではありません。将来の燃料価格や需給の見通し、売り手・買い手の状況などによって取引価格は変わります。

3. 「3年前1年物」と「1年前1年物」を図表で理解する

商品の基本的な方向性は、制度設計WGの商品設計に関する資料で、当初は実需給の3年前と1年前に取引し、受渡し期間は原則1年間と整理されています。中長期取引市場検討WG第1回の資料にも、取引年度と受渡年度の関係が示されています。

「3年前」は買う時期、「1年物」は電気を受け取る期間を表します。3年前に契約するからといって、その時点から3年間電気を受け取る商品ではありません。

商品取引する年度電気を受け取る年度
3年前1年物N−3年度N年度の1年間
1年前1年物N−1年度N年度の1年間

例えば、2032年度に使う電気を買う場合、時間軸は次のようになります。

時点3年前1年物1年前1年物
2029年度(3年度前)2032年度分を売買—
2030年度(2年度前)受渡し前—
2031年度(1年度前)受渡し前2032年度分を売買
2032年度(実需給年度)契約分を受け取る契約分を受け取る

図表は商品の基本的な時間関係を示すもので、注文できる具体的な日程や転売の可否を示すものではありません。また、2032年度に使う電気について二段階で調達する場合、それぞれの購入量を合算して管理します。

4. 相対契約・スポット市場・電力先物との違い

電力の取引手段は、取引する場所だけでなく、現物を受け取れるか、どの時点の電気を対象にするかで比べると整理できます。

取引手段主な役割受渡し・決済の考え方
中長期取引市場(整備中)将来の一定期間の電気を前もって売買する現物の電気の受渡しを伴う取引を想定
相対契約売り手と買い手が条件を交渉して電気を調達する期間・数量・価格条件などを個別契約で定める
スポット市場翌日に必要な電気を売買する翌日受渡しの電気を30分単位で取引
電力先物(TOCOM)将来の電力価格の変動リスクをヘッジする電気そのものは受け渡さず、差金決済する

スポット市場の仕組みはJEPXの取引概要、電力先物の差金決済は日本取引所グループの電力先物の説明で確認できます。

中長期取引市場が整備されても、相対契約やスポット取引が不要になるわけではありません。標準化された商品では合わない条件を相対契約で調整したり、需要予測の変化に応じた不足・余剰を短期市場で調整したりする使い分けが考えられます。

また、先物は現物の調達と組み合わせて使うことができます。「電気を受け取れる契約」と「価格変動を抑える取引」を分けて管理することが大切です。

関連する基礎知識は、JEPXの解説と電力先物取引の解説も参考にしてください。

5. 小売の「3年前5割・1年前7割」との関係

小売の量的な供給力確保は、「必要な電気を、いつまでに、どれだけ確保しておくか」という制度です。中長期取引市場は、その調達を行いやすくする環境の整備と位置づけると理解できます。

したがって、供給力確保の水準を、そのまま「この市場で買わなければならない割合」と読むことはできません。個々の調達手段が確保量に算入できるかは、それぞれの制度上の条件によります。

確保割合や小規模事業者の扱いは、小売電気事業者の「3年前5割・1年前7割」の解説で整理しています。

開始時期について、制度設計WGのスケジュール資料では、中長期取引市場の取引開始を2028年度に想定し、その状況を踏まえて2030年度供給計画から量的な確保状況の確認を始める工程が示されています。市場の取引開始と、供給計画での確認開始は別の時点です。

6. 商品を見るときは「期間・時間帯・価格条件」を確認する

実務で商品を比較するときは、「何円/kWhか」だけで判断しないことが重要です。少なくとも、次の3つを並べて確認すると、調達したい電気との違いが見えます。

確認項目確認する内容見落とすと起こり得ること
受渡し期間どの年度・月の電気か必要な年度の確保量として使えない
時間帯と数量全時間帯か、特定時間帯か。何kW・何kWhか年間の量は足りても、昼夜や季節で不足・余剰が出る
価格条件固定価格か、燃料費等による調整があるか契約時の表示価格と最終的な支払額が異なる

例えば、説明用に「全日24時間、1MWを受け取る商品」を考えます。365日の1年間なら、電力量は1,000kW × 24時間 × 365日=876万kWhです。一方、顧客の需要が昼間に偏る小売では、夜間に余剰が出ることがあります。年間の合計電力量と、各時間帯に必要な量の両方を見る必要があります。

この数値例は一定出力の商品を理解するための計算例であり、実際の取引単位や商品の確定仕様を示すものではありません。価格条件に加えて、担保や支払時期などの資金負担も確認が必要です。

7. 今後の制度設計で注目したい点

使いやすい市場になるかどうかは、商品を用意するだけでは決まりません。十分な売り注文があるか、買い手が参加しやすいか、必要なエリアに電気を届けられるかなども重要です。

  • 取引量:売り手と買い手が集まり、必要な量を取引できるか。
  • 商品設計:時間帯や価格調整の条件が比較しやすいか。
  • 市場範囲:受渡しエリアや地域間の価格差をどう扱うか。
  • 参加・決済条件:参加資格、担保、代金回収や不履行への対応はどうなるか。

発電事業者に売り注文を出すことを求める仕組みも、市場の取引量を確保するための論点です。ただし、市場に出された量が、そのまま各小売の購入済み数量になるわけではありません。売り注文、取引成立、契約上の受渡しを区別して考える必要があります。

この記事は基本的な役割と時間軸に焦点を当てています。具体的な取引開始日、参加資格、取引上限、転売条件などは、経済産業省の中長期取引市場検討WGの資料と、今後公表される市場規則で確認してください。

8. まとめ

中長期取引市場は、将来の電気を前もって売買し、小売の安定調達と発電側の見通しを支えるための仕組みです。「3年前1年物」は、3年前に取引して、対象年度の1年間に電気を受け取る商品という意味になります。

相対契約、スポット市場、先物はそれぞれ役割が異なります。調達手段を比較するときは、現物を確保できるか、いつ受け取るか、どの時間帯の電気か、価格がどのように決まるかを分けて見ると、制度と実務のつながりが分かりやすくなります。

参考資料・一次情報

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