長期脱炭素電源オークションとは?仕組み・対象電源・容量市場との違いをわかりやすく解説

日本では、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーや原子力、水素などを活用した脱炭素電源への投資が重要になっています。

しかし、新しい発電所の建設には多額の資金が必要です。

電力市場の価格が将来どうなるかわからない状況では、発電事業者が大規模な投資に踏み切ることは簡単ではありません。

こうした課題に対応するため、2023年度から始まった制度が「長期脱炭素電源オークション」です。

長期脱炭素電源オークションとは、新しい脱炭素電源などへの投資を促すため、落札した発電事業者が原則20年間にわたって固定費水準の容量収入を得られる仕組みです。

この記事では、制度の目的、収入の仕組み、対象となる電源、通常の容量市場との違い、2026年度の動向まで、初心者にもわかりやすく解説します。

1. 長期脱炭素電源オークションとは?

長期脱炭素電源オークションは、将来の電力供給に必要な新しい電源への投資を促進する制度です。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)が実施する容量市場の仕組みの一つで、発電事業者などが新設・リプレース等の電源について応札します。

落札した電源は、所定の条件を満たすことで、原則20年間にわたる容量収入を得られます。

ここで重要なのは、実際に発電した電力量(kWh)を売買する市場ではないという点です。

長期脱炭素電源オークションでは、将来にわたって電気を供給できる能力(kW)を確保することに対して、対価が支払われます。

例えば、新しい発電所の建設を検討する企業にとって、将来20年間の一定の収入を見通せることは、投資判断を行ううえで大きな意味があります。

2. なぜ長期脱炭素電源オークションが必要なのか?

この制度が導入された背景には、大きく2つの課題があります。

① 発電所への新規投資が難しくなっている

電力自由化が進んだことで、発電事業者は市場価格の変動リスクにさらされるようになりました。

例えば、発電所の建設に数千億円を投じたとしても、将来の電力市場価格が低下すれば、十分な収益を得られない可能性があります。

一方、発電所の建設費や維持管理費などは、発電量にかかわらず発生します。

このように、長期的な収入の見通しが立ちにくいことが、新規投資を妨げる要因となっています。

② 脱炭素と安定供給を両立する必要がある

日本は2050年のカーボンニュートラル実現を目指しています。

そのためには、化石燃料に依存した発電設備から、脱炭素電源への転換を進める必要があります。

しかし、脱炭素化を進めるだけでなく、電力需要が増加したときにも安定して電気を供給できる設備を確保しなければなりません。

長期脱炭素電源オークションは、こうした脱炭素化と電力の安定供給を両立するための投資を後押しする制度なのです。

3. 長期脱炭素電源オークションの仕組み

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 発電事業者などが、新しい発電所や設備改修への投資を計画する
  2. 対象となる電源について、供給力と希望価格を応札する
  3. OCCTOが制度のルールに基づいて落札電源を決定する
  4. 落札した事業者が設備の建設・改修を進める
  5. 供給力の提供開始後、契約上の条件に従って容量収入を受け取る

この仕組みの最大の特徴は、原則20年間にわたり固定費水準の容量収入を得られることです。

ただし、20年間の収入が無条件に保証されるわけではありません。

落札事業者には、設備の建設や供給力の提供などに関する義務があり、義務を果たせなければペナルティが発生する場合があります。

また、電力市場などで得た収益の一部を還付する仕組みも設けられています。

4. なぜ20年間の収入を確保できるのか?

発電所への投資では、初期費用が非常に大きくなることがあります。

例えば、ある発電事業者が新しい発電所の建設を検討しているとします。

建設には多額の費用が必要ですが、完成後の電力市場価格がどうなるかはわかりません。

そこで、長期脱炭素電源オークションで落札することにより、一定の容量収入を長期間見込めるようにします。

仮に、次の条件で落札したとしましょう。

  • 契約容量:10万kW
  • 落札価格:年間2万円/kW

単純計算すると、

10万kW × 2万円/kW/年 = 年間20億円

となります。

20年間では、単純計算で400億円に相当します。

※これは制度を説明するための仮定です。実際の収入は契約条件、補正、ペナルティなどによって変わります。

このように、長期間の容量収入を見込めることで、金融機関からの資金調達や企業の投資判断を行いやすくする効果が期待されています。

5. 対象となる電源は?

長期脱炭素電源オークションでは、脱炭素化に資する新規投資が主な対象となります。

代表的な電源・設備には、次のようなものがあります。

電源・設備

主な特徴

太陽光・風力など

再生可能エネルギーによる発電

水力・地熱

比較的長期間にわたって利用できる脱炭素電源

原子力

発電時にCO₂を排出しない電源

水素・アンモニア関連電源

燃料の脱炭素化を目指す電源

CCS付き火力

CO₂の回収・貯留を活用する電源

蓄電池

電力を貯蔵し、必要な時間帯に供給する設備

ただし、すべての設備が無条件で参加できるわけではありません。

電源の種類や規模、運転開始時期、他の支援制度との関係など、募集年度ごとに詳細な参加要件が設けられています。

LNG火力も対象になるの?

長期脱炭素電源オークションという名前ですが、当面の間、一定の条件を満たすLNG専焼火力の新設・リプレースも対象となっています。

これは、脱炭素化を進める過程でも、電力の安定供給を維持する必要があるためです。

LNG火力は、再生可能エネルギーの発電量が少ない時間帯などに、供給力を確保する役割を担います。

ただし、LNG専焼火力への支援は、脱炭素電源への移行を見据えた制度上の位置づけであり、対象条件や募集量には制限があります。

6. 通常の容量市場との違い

長期脱炭素電源オークションと通常の容量市場は、どちらも将来の電力供給力を確保するための仕組みです。

しかし、目的や契約期間には大きな違いがあります。

項目

容量市場のメインオークション

長期脱炭素電源オークション

主な目的

将来必要な供給力の確保

新しい電源への投資促進

主な対象

既設電源を含む供給力

脱炭素電源などへの新規投資

対象期間

原則1年間

原則20年間

応札価格

円/kW/年

円/kW/年

約定方式

原則シングルプライス方式

マルチプライス方式

主な役割

既存設備を含む供給力の維持・確保

新設・リプレース等への投資促進

通常の容量市場では、原則として4年後の1年間に必要な供給力を確保します。

一方、長期脱炭素電源オークションは、新規投資を対象に長期間の収入見通しを与える制度です。

つまり、**通常の容量市場は「将来の供給力を確保する仕組み」、長期脱炭素電源オークションは「新しい供給力をつくるための投資を促す仕組み」**と整理できます。

容量市場の基本的な仕組みについては、関連記事「容量市場とは?発電していなくても収入が得られる仕組みをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

7. オークションではどのように落札価格が決まる?

長期脱炭素電源オークションでは、マルチプライス方式が採用されています。

マルチプライス方式とは、落札した電源ごとに、原則としてそれぞれの応札価格が約定価格になる方式です。

例えば、3つの発電所が次の価格で応札したとします。

発電所

応札価格

A発電所

1万5,000円/kW/年

B発電所

2万円/kW/年

C発電所

2万5,000円/kW/年

仮に3つとも落札した場合、それぞれの約定価格は原則として応札価格と同じになります。

  • A発電所:1万5,000円/kW/年
  • B発電所:2万円/kW/年
  • C発電所:2万5,000円/kW/年

一方、通常の容量市場のメインオークションでは、原則としてシングルプライス方式が採用されています。

この違いも、両制度を理解するうえで重要なポイントです。

※実際の落札決定では、募集量、電源区分、価格監視、個別の募集条件なども考慮されます。

8. 電力市場で得た収益はどうなる?

長期脱炭素電源オークションで落札した発電所は、容量収入とは別に、電力市場などで電気を販売して収入を得ることがあります。

しかし、容量収入を受け取りながら、市場価格の高騰によって多額の利益を得た場合、その収益をすべて事業者が保持できる仕組みではありません。

制度では、他市場収益のうち可変費を超える部分について、所定のルールに従って還付する仕組みが設けられています。

これは、発電事業者に長期的な投資回収の見通しを与えながら、過度な利益が生じることを抑えるためです。

ただし、還付額の計算方法や対象となる収益には詳細なルールがあります。

長期脱炭素電源オークションは、発電事業者に利益を無条件で保証する制度ではなく、必要な投資を促すための制度であることが重要です。

9. 費用は誰が負担する?

長期脱炭素電源オークションで発電事業者に支払われる容量収入は、主に小売電気事業者などが負担する容量拠出金によって支えられています。

そのため、この制度は発電事業者だけでなく、小売電気事業者にも関係します。

小売電気事業者にとって容量拠出金は、電力供給に伴うコストの一つです。

そして、そのコストは電気料金の設計にも影響する可能性があります。

ただし、容量拠出金が電気料金に一律で直接上乗せされるわけではなく、料金への反映方法は各事業者や契約によって異なります。

また、制度によって新しい電源への投資が進めば、将来の供給力不足や電力価格の急激な変動を抑える効果も期待されます。

つまり、費用負担だけでなく、将来の安定供給にどのような効果をもたらすかも重要な評価ポイントとなります。

10. 2026年度の長期脱炭素電源オークションの動向

長期脱炭素電源オークションは、2023年度から実施されています。

2026年度についても、電力広域的運営推進機関が募集要綱を公表しています。

2026年9月2日には、2026年度の募集要綱および容量確保契約約款が公表されました。

また、2026年10月9日には、参加登録や応札に関するスケジュールが公表されています。

主な日程は次のとおりです。

手続き

予定日

事業者情報の登録

2026年10月13日~16日

電源等情報の登録

2026年10月19日~23日

期待容量の登録

2026年12月9日~15日

応札

2027年1月19日~26日

応札容量算定諸元の登録

2027年1月27日~2月3日

約定結果は、応札受付終了から約3か月後を目途に、2027年度に公表される予定です。

ただし、スケジュールは変更される場合があります。

2026年度の詳細な参加要件や募集条件については、必ず最新の募集要綱を確認する必要があります。

11. 長期脱炭素電源オークションの課題

長期脱炭素電源オークションは、新しい電源への投資を促す重要な制度ですが、いくつかの課題もあります。

① 長期的な費用負担

原則20年間にわたる容量収入を確保する仕組みであるため、制度に伴う費用負担も長期間に及びます。

新しい電源への投資促進と、電気料金への影響をどう両立させるかが重要です。

② 適切な落札価格の設定

落札価格が高すぎる場合、制度全体の費用負担が増加する可能性があります。

一方、価格が低すぎれば、発電事業者が投資を行う十分なインセンティブを得られないかもしれません。

そのため、応札価格の監視や制度の継続的な見直しが重要になります。

③ 将来の技術や電力需要の変化

今後は、再生可能エネルギー、蓄電池、水素、アンモニア、CCSなどの技術が進展する可能性があります。

また、データセンターの増加などによって、電力需要の見通しが変化することも考えられます。

20年間という長い期間を対象とする制度だからこそ、将来の不確実性を踏まえた制度設計が求められます。

12. よくある質問

Q1. 長期脱炭素電源オークションはいつから始まった?

2023年度から開始されました。

脱炭素電源などへの新規投資を促すために導入された制度です。

Q2. 落札すれば20年間必ず収入が得られる?

原則20年間にわたる容量収入を得られる仕組みですが、無条件ではありません。

契約上の義務やペナルティ、他市場収益の還付などがあるため、実際の受取額は条件によって異なります。

Q3. 既存の発電所も参加できる?

基本的には、新設・リプレースなどの新規投資が対象です。

ただし、既設火力発電所の脱炭素化に向けた改修など、一定の条件を満たす投資も対象になります。

単に既存の発電所を運転し続けるだけでは、原則として対象になりません。

Q4. 通常の容量市場と両方で収入を得られる?

同じ供給力について、両制度から無条件に容量収入を二重に受け取れるわけではありません。

参加や契約の重複に関する制限があるため、個別の募集要綱や契約条件を確認する必要があります。

13. まとめ:長期脱炭素電源オークションは将来の電源投資を支える制度

長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源などへの新規投資を促進するための制度です。

今回のポイントを整理すると、次のとおりです。

  • 2023年度から始まった、電源への新規投資を促す制度
  • 落札した事業者は、原則20年間の容量収入を見込める
  • 脱炭素電源の新設・リプレースや既設火力の脱炭素化改修などが対象
  • 当面の間、一定のLNG専焼火力も対象となる
  • 通常の容量市場とは、主な対象や契約期間が異なる
  • 他市場収益の還付や契約上の義務が設けられている
  • 費用は主に小売電気事業者などの容量拠出金によって支えられる

電力市場では、日々の電気を売買することだけでなく、将来必要となる発電設備に投資し、供給力を維持することも重要です。

長期脱炭素電源オークションは、こうした長期的な投資の課題に対応しながら、日本の脱炭素化と電力の安定供給を支える仕組みといえるでしょう。


参考資料

本記事は2026年10月24日時点の公表資料をもとに作成しています。募集条件や制度の詳細は変更される場合があります。

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